エレベーターが密室であることを再認識させてくれた老人が腰砕けに?

Miscellaneous notes

いつものように、図書館に行ったときのことだった。本を借りて帰ろうと思い、エレベーターに向かった。そこにはわたしと同じように、エレベーターで降りようとする老人がいた。杖をついていたので、そこそこの年齢なのかもしれない。しばらくするとエレベーターの扉が開いて、乗っている人たちが降りてきた。わたしはこの老人を驚かせないように注意しながら、少し間隔をあけてゆっくりエレベーターに乗り込んだ。そして老人が正面を向くために振り返ったとき、事件は起こった。
「ああああっ」という、映画かテレビでしか聞いたことがないような、うめき声ともつかない声を出しながら、その老人はエレベーターの中で崩れ落ちた。そう、崩れ落ちたという表現がピッタリな動きだった。一体全体何を見たら、そんな声が出るのだろうか。普通の生活の中で、そんな声を出すことがあるのだろうか。わたしはその声に驚きながらも、何がどうなっているのかよく理解ができず、一瞬固まったまま立ち尽くしてしまった。そしてようやく絞り出すように、「どうしたんですか?」と声をかけた。するとその老人は、「いや、ちょっとびっくりしたもので」と、ちょっと落ち着いた感じで返答してきた。そして何もなかったかのように立ち上がった。
「え、なにそれ?それがちょっとびっくりした人のとる反応か?というか、その後の平然としたその態度は何なの?こちらの方が、逆に驚くわ。」と思いながらエレベーターに乗っていた。
そういえば、もう20年以上前の話になるが、田舎で道に迷い地元の老人に声をかけたことがある。薪か何かを小脇に抱えた、少し腰の曲がった老人だった。驚かせないように注意しながら、「すみません」と後ろから声をかけた。しかし、その老人は振り返るときにバランスを崩し、転けてしまった。普通にこけたのならまだ良かったのだが、たまたま地面が少し坂になっていたため、一回転してしまった。これが土の上ならまだしも、コンクリートの上だったので、こちらもどこか打っていないかと驚いてしまった。すぐに抱きかかえて起こしたのだが、その老人がとても怒って逆ギレしていたのを覚えている。幸いその老人に怪我もなく、それ以上の問題は起こらなかった。
この時はこちらから声をかけたのだから少しは責任を感じたが、今回はこちらから何のアクションも起こしていない。ただエレベーターに乗り込んだ老人が、振り返ったときにわたしを見て、驚いたというだけの話だ。どこにも問題はありえない。しかし、こちらとしては状況が悪すぎる。相手は杖をついた老人。こちらは還暦を超えているとはいえ、そこそこ大柄なおっさん。もし1階でエレベーターのドアが開いたとき、腰を抜かした老人の前にマスクと帽子を被ったデカい男がいたら、それを見た人たちはどう思うだろう。その上もし、失禁して口から泡でも吹いていたら、どう考えてもマズイだろう。
それにしてもこの老人は、こちらが引くぐらいに驚いていた。「わざとやっているのか?」というぐらいのリアクションだった。そのとき思ったのが、我が家での奥さんの反応だ。もう30年近く一緒に住んでいるのに、いまだにわたしが近寄ると驚いている。最近はその反応に、少々腹が立ってきた。二人しか家にいないことがわかっているのに、何故そこまで驚くのだろう。もちろん、急に現れたり、驚かすような行動は取っていない。それどころかどちらかというと、気を使って脅かせないように行動しているぐらいだ。しかし、こっそり現れるから驚くのだと、逆にキレられたこともある。
これは自分の実家でも、奥さんの実家でも同じだ。義妹は近くに立っているだけで驚くし、自分の実家で働いているヘルパーも、毎回出会うたびに驚いている。もうこうなると多分、わたしの方が悪いのだろう。納得できない面もあるが、これからはもっと気をつけて行動することにしよう。
ただ、今回で教訓になったことは、老人と二人っきりではエレベーターに乗らないほうがいいということだ。いや、これは老人に限った話ではない。知らない女性や子供でも、同じことだ。エレベーターが密室であることを、わたしがもっと意識しなければいけない。
今までは4、5階ほどなら階段を使っていたのだが、現在膝を痛めているので仕方なくエレベーターを使っている。今回の事件もそのせいで起こったといえる。実際、膝が悪くなる前は、図書館では階段を使っていた。近頃だいぶ膝の調子も良くなってきたので、リハビリも兼ねてそろそろ階段を使い始めたほうがいいのかもしれない。

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