最所氏の本は研究社より10冊発売されたのだが、それ以来再刊されず休眠していたらしい。それを惜しいことだと感じた加島祥造氏が筑摩書房に働きかけ、「英語類語活用辞典」が刊行された。それが読者の好感を得て、この「日英語表現辞典」も世に出ることになったらしい。
出版されても長く売り続けられる本は、本当に限られている。ほとんどの本は、いつの間にか店頭から消えている。近年、毎日夥しい数の書籍が発売されているので、その傾向はなおさら顕著だ。
「日英語表現辞典」は読み物として
「編著」となっているので、最所氏が「書物を編集し、その一部を著作」したのだろう。
これだけのものをほぼ一人で書いて編集しているとは、ものすごい分析力と思考力だ。
まず、文体が特徴的で、辞書っぽくない。まるで人に語りかけるように、何か英語の授業で説明しているかのような文体で書かれている。
もちろん普通の辞書とは違うので、全ての英単語を取り扱っているわけではない。
最所氏が「現代英語の真の理解の一助に」なるようにと、集めたものだ。
最所氏は、「本辞典の選択の基本方針は、英語で言う”seminal words”を選ぶという一事に尽きる」と言い切っている。「つまり有機的可能性を持つ種子に限ったのである。」
「英和の部」では、どちらかというと口語的な使い方やスラングの解説が多いようだ。
あと、あまり使われない日本語の意味の説明などもある。
例えば「rich」の項目で、「香辛料をたっぷり入れた、こってりした味」を説明するために、
“Is the Chinese cooking in Tokyo rich ?”
という例文をあげている。
そして、その意味を、「東京の中国料理はこってりしているか、あっさりしているか?」とし、「美味しいか?」とは問うていないと言っている。
英語に慣れている人だとすぐにこの意味がわかるのだろうが、私なら「高価なのか?」の意味に取ってしまう。ましてや会話でなら、なおさらだ。そして、「Yes, a little rich 」と答えてしまい、相手は「そうか、ちょっとこってりしているのか」と勘違いしたまま話が続くのだろう。
あと少し気になったこととして、英和の部の「X」が1項目なのは仕方ないにしても、「Y」まで一つだけなのはいかがなものだろう。「Z」も二つのなので、最後に端折った感が出てしまう。何か大人の事情でもあったのだろうか。
「和英の部」に関しては、取り上げている言葉が面白い。
「A」の始まりから、「あばれもの」や「あぶく銭」を取り上げている。
例えば、「do- ど」という項目があり、an emphatic prefix(強めのための「ど」)とある。
続いて、「どえらい」の説明になり、enormous; stupendous; out of proportions らの単語をあげている。そして、例文には、
「どえらい騒ぎになってしまった」
It developed into an uproar all out of proportion.
とある。何だかとても難しい英文だ。英文から考えても、すぐには意味が掴めない。
私のレベルでは、この日本語からとてもこのような英文は思い浮かばない。
ちなみにDeepLで試してみると、
It’s been a hell of a mess.
となっており、「a hell of」で「どえらい」の感じを出しているようだ。
DeepLは先日、テレビでも取り上げられていたが、「世界一高精度な翻訳ツール」と謳っている。
Google翻訳に不満のある方は、試してみる価値はあるかもしれない。
また、「みらい翻訳」なら、
There was such a fuss.
と出てくる。ここでは簡単に、「such」で対応している。
高精度な翻訳が可能なことで知られる「みらい翻訳」は基本的には有料なのだが、Google Chrome向けにワンクリックで文章を翻訳できる拡張機能を公開していた。
「お試し翻訳」や「14日間の無料トライアル」もあるので、興味のある方は試してみるのもいいかもしれない。
あと、パラパパとめくっているときに、「kerai 家来」という項目が目についた。
たまたま数日前、ENGLISH JOURNALを見ているときに調べた単語だった。
インタビュー記事なのだが、そこで「retainer」という単語が使われていて、「家来」か「家臣」と訳されていた。だが「日英語表現辞典」では、「この言葉に当たる英語はふしぎとない」と書いてある。そして近い意味の単語を、いくつかあげている。
こういったきっかけでまたその単語を思い出し、そして類義などを調べることで、知識として徐々に固まっていくのだろう。
「英語類語活用辞典」
「日英語表現辞典」を読み終えて、最初フミ氏に興味を持ったので別の本を探してみた。
すると、同じちくま学術文庫より「英語類語活用辞典」が発売されていた。
最初にこの本を読んだとき、よくこれだけの類義語を取り上げたものだと感心した。
一気に読みとしてしまったので、またゆっくり他の本や辞書と比較しながら勉強しようと思っていたら、10年以上経ってしまった。本当によくある話なので、我ながら呆れてしまう。
今回ここで取り上げたおかげで、やり直す気になってきた。この気持ちが萎えないうちに、早めに取り掛かりたい。
ちなみに、ケリー伊藤氏の「英単語「比較」学習帳」は、基本的な英単語を取り上げて、比較しながら勉強できるようになっていてとても便利だ。
例題も豊富なうえに練習問題までついており、取り上げた英単語の違いを理解しやすいように工夫されている。ただ、新刊で購入できないのが残念だ。